燻製作りに興味はあるものの、何から始めたらいいのかが全くわからなかったり、専門的な書籍を見て作る気力がなくなってしまったり、という方は少なくないはずです。
そんな燻製初心者の方に向けて、燻製の作り方を「道具編」「食材編」「調理編」の3つのパートに分け、どこよりもわかりやすく、ていねいに解説します。
本記事は、燻製の作り方「食材編」として、燻製に使う食材選びのポイント、初心者におすすめの食材、肉・魚の下処理や味付けの方法などについてご紹介します。
燻製の作り方:完成までの大まかな流れ
改めて、燻製作りの大まかな流れを確認しておきましょう。
- 道具の調達
- 食材の調達
- 下ごしらえ <下処理・味付け・塩抜き>
- 乾燥(風乾)
- 燻煙(燻す)
- 再乾燥(風乾)
今回は、下線が引いてある「食材の調達〜乾燥(風乾)」について、詳しくご紹介します。
燻製作りに必要な道具は下記記事で詳しくご紹介していますので、気になった方はぜひチェックしてみてくださいね。
燻製の作り方:食材選びのポイント
燻製にする食材選びのポイントは、食材の「鮮度」と「水分量」の2点に気を付けることです。
なぜ、この2点が重要になるのかをご紹介します。
新鮮な食材を選ぶ
燻すことでなんとなく賞味期限や消費期限が延びたり、風味をつけるだけでも美味しくなりそうと思ったりする方もいるかもしれませんが、どんなに強い薫香をまとわせても素材の味はごまかすことができません。
せっかく時間をかけて燻製を作るのですから、そのまま食べても美味しい鮮度抜群の食材を選びましょう。
水分量が少ない食材を選ぶ
燻製作りは、食材の水分量が多いほど難しくなります。これは、煙が水に溶けやすい性質を持っていることが関係しています。
気になる方のために、原理を少しだけ詳しくご説明しますね。
水分が豊富な食材を、適切な処理をしないまま燻したとします。
すると、まず真っ先に、表面の水分に煙の成分が反応して酸味やエグみが生まれます。
そのまま燻し続けると、食材は酸味やエグみを持ったまま表面から乾燥していきます。
乾燥が進んだ食材の表面は、燻煙をブロックするようになってしまい、食材のなかに煙がうまく入り込むことができなくなります。
その結果、全体的にエグみ・苦味・酸味だけが残る残念な仕上がりになってしまうのです。
燻製といえば肉や魚をイメージする方も少なくないのですが、生肉や生魚、野菜などの水分が多く含まれている食材は、燻製作りにある程度慣れてからチャレンジするのがおすすめです。
燻製の作り方:初心者におすすめの食材
下記は、燻製初心者でも失敗が少ないとされている食材です。はじめて作るなら、このあたりからスタートするのがおすすめです。
- プロセスチーズ
- ソーセージやベーコンなどの加工肉
- ちくわやかまぼこなどの練り物
- 魚の干物
- ナッツ類
初心者でも作りやすい食材に共通する特徴は3つあります。
水分量が比較的少ないこと、食材自体に味がしっかりとついていること、そして下処理が不要ということです。
余談ですが、カマンベールチーズをはじめとしたナチュラルチーズは、熱で溶けやすいうえ、溶けたチーズで庫内がえらいことになるので、初心者の方にはあまりおすすめできません。
上記以外を燻したいという方は、さきいかやチータラなど、お酒のあてになる「乾き物」をイメージすると食材選びがいくらか簡単になるはずですよ。
燻製の作り方:食材の下処理
前項「初心者におすすめの食材」では、そのまま燻しても美味しく仕上がる食材をご紹介しましたが、肉や魚など、水分量の多い食材を燻す場合は下ごしらえが必須です。
ここからは少し専門的な知識も交えながら、食材の下処理・味付け・塩抜き・風乾の手順をご紹介します。
肉の下処理
肉の下処理は、整形がメインです。小骨や、余分な脂肪を取り除きましょう。
豚バラや牛もも肉などの肉の塊は、フォークや肉たたきで穴をあけると味が染み込みやすくなります。
魚の下処理
丸魚を使う場合は、普段の調理と同じ要領で下処理を行います。
ウロコ取り、エラ・内臓・血合いの処理ができたら、しっかりと水洗いしましょう。魚がきれいになった後は、必要に応じて三枚おろし・腹開き・背開きでさばきます。
なお、スーパーで売っている魚のサク・切り身・お刺身でも燻製を作ることができます。
燻製の作り方:食材の味付け
下処理のあとは、味付けをしていきます。
料理では、甘い・しょっぱい・酸っぱいなどの味を決めたり、風味をつけたりするために味付けをしますが、燻製における味付けは意味合いが少し異なります。
というのも、燻製は本来、長期保存を目的とした調理法ですので、水分量の調整がしやすい塩での味付けがメインになっているのです。
ここでは、燻製作りの代表的な味付け方法である乾塩法・湿塩法の解説と、簡易的な味付けの方法をご紹介します。
塩をすり込む(乾塩法)
乾塩法は、原料に対して3〜5%程度の塩を直接をすり込み、数日〜2週間ほどかけて塩漬けにする味付け方法です。
塩のほかに、砂糖やコショウ・ハーブなどのスパイスを合わせてすり込む場合もあります。
乾塩法のメリットは、食材が直接塩に触れるため、湿塩法よりも早く脱水ができることです。
ただし、仕上がりにムラができやすかったり、キッチンペーパーを使う場合は毎日交換しなければならなかったりするため、上級者向けの味付け方法とされています。
ソミュール液・ピックル液に漬ける(湿塩法)
湿塩法は、ソミュール液・ピックル液などの塩水に食材を半日〜1週間程度漬け込み、塩漬けにする味付け方法です。
ソミュール液とピックル液はどちらも燻製用の漬け込み液のことをいいますが、明確な定義がないことから、「ソミュール液」と総称されることが多い印象です。
あえて分けるのであれば、ソミュール液は塩水に砂糖を加えた液体、ピックル液はソミュール液にコショウなどのスパイスや、ハーブ・醤油・ワイン・にんにくなどを加えた調味液、といったところでしょうか。
塩分濃度はソミュール液・ピックル液ともに3〜30%程度と、作る燻製品によって幅が大きくなります。
なお、塩漬けの方法で簡単なのは、圧倒的に湿塩法です。
ソミュール液を作る手間はかかるものの、塩辛すぎて食べられない、といった大失敗は避けられるはずですよ。
簡単な味付けの方法
「もっと手軽に燻製が作りたい……」と思った方は、料理の下味のようにさっと塩を振る程度の味付けでも構いません。
ただし、塩漬けをしていない燻製品は日持ちしませんので、当日か遅くとも翌日までには食べ切ることをおすすめします。
燻製の作り方:塩抜き・洗浄
乾塩法・湿塩法で数日漬け込んだ後は、塩抜きを行いましょう。
「塩漬けしたのに、塩を抜くの?」
という疑問が聞こえてきそうですね。私も燻製を始める前は、同じように思っておりました。
ここでは、なぜ塩抜きが必要なのか、そして具体的な塩抜きの方法などをご紹介します。
塩抜きを行う理由
塩抜きをする主な理由は、食材表面の塩分濃度を下げるためです。
塩漬け後は、中心部よりも表面の塩分濃度が高い状態になっていますので、食材全体の塩分濃度を均一に近づけるために塩抜きが必要になるのです。
塩抜きの方法
塩抜きの方法は、水をはったボウルに3~6時間程度浸しておくだけOKです。
水は、1%前後の塩水を用意しましょう。真水より薄い塩水に漬ける方が、浸透圧が強くなり、水分が早く抜けます。
塩抜きの時間短縮をしたい場合は、1時間おきに水をかえたり、ボウルに水を流しながら洗ったりしましょう。
塩抜きの目安
塩抜きは加減が難しいので、ある程度時間が経ったら一部分を切り取って味見をし、加減をみながら塩抜きの時間を調整するのがおすすめです。
なお、この後は水分を飛ばす工程に移ります。
水分が飛ぶと塩味を強く感じるようになるため、塩抜きは「このままでは少し物足りないかな……」くらいの、薄味まで塩を抜くのがおすすめです。
燻製の作り方:乾燥(風乾)
塩抜き後は、食材を乾燥させる工程に移ります。燻製業界では、この工程を風乾(ふうかん)と呼びます。
乾燥(風乾)を行う理由
燻製前に食材を乾燥させる理由は、3つあります。
食材を熟成させるため、水分量を減らして保存性を高めるため、そして燻煙を定着させやすくするためです。
「食材選びのポイント」の項目でもご紹介しましたが、表面に水分が残ったまま煙をあてると、食材が酸っぱくなったり、エグくなったりしやすくなりますので気をつけましょう。
王道の乾燥(風乾)方法は陰干し
食材表面の水分をキッチンペーパーなどで軽く拭き取り、干しカゴに乗せ、風通しの良い日陰で食材を乾燥させるのが王道の風乾方法です。
風乾時間は食材の大きさによりますが、最低でも1時間、できれば半日ほどかけるのが理想です。
風乾の完成イメージは、食材の表面がしっかりと乾いている状態です。様子を見ながら風乾時間を調節してみてください。
冷蔵庫での乾燥も可
乾燥を自然に任せる陰干しの風乾では、気温や湿度、日光の入り方などによって仕上がりが変わります。
そのため、現代では冷蔵庫で乾燥させる方が増えています。
温度・湿度が一定に保たれている冷蔵庫では、季節や天候、大気の汚れなどを気にせずに乾燥ができますよね。
乾燥時間も、陰干しの風乾と大差ありませんので、強いこだわりがなければ冷蔵庫乾燥で充分でしょう。
燻製作りは食材をていねいに処理することが重要!
燻製作りは煙をあてる工程にスポットがあてられがちですが、実は、食材の下ごしらえが燻製の完成度を左右するといっても過言ではありません。
食材をていねいに下ごしらえすることで、食材そのものの旨みがぐっと引き立つようになるのです。
燻製初心者の方は「水分量が比較的少なく、食材自体に味がしっかりついている下処理不要な食材」を、燻製に慣れてきた方は「食材のていねいな下ごしらえ」を意識して、美味しい燻製を作ってみてくださいね!
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